採用の場で、よく聞かれた質問があります。
「どんな人が、UXの仕事に向いていますか?」
この問いに、私はいつも少し考えてから答えていました。
なぜなら、多くの人が期待している答えと、実際に現場で見てきた光景には、少しずれがあるからです。
最初は、ほとんど五十歩百歩
UXの仕事を始めたばかりの頃、人の差はそれほど大きくありません。
- 多少の事前知識がある
- 思考が速い
- 論理を組み上げるのがうまい
こうした違いは、確かにあります。
それ自体は素晴らしいことですし、仕事の立ち上がりでは助けにもなります。
ただ、何年も現場を見てきて思うのは、長いスパンで見れば、それが決定的な差になることはあまりないということです。
最初は本当に、どんぐりの背比べ。
UXの仕事の質を分けるのは、もっと後の、別のところにあると考えています。
差が出るのは、「発見」に出会ったとき
決定的な差が出るのは、調査をしたあとです。
ユーザーの行動を見て、想定していなかった反応に出会ったとき。
仮説が、あっさり崩れたとき。
その瞬間に、二つのタイプが現れます。
- 「なるほど」と理解して、そこで止まる人(あるいは例外として目を背ける)
- 放置できず、アウトプットを更新したくなって仕方がない人
後者の人は、作っては壊し、壊してはまた作る。それを苦行ではなく、どこか楽しそうに繰り返します。
何度も何度もやり直す。遠回りに見えても、手を止めない。
結果として、やはりそういう人が、いい仕事をしていきます。
「反秀才」な人
この経験を振り返ると、 柘植俊一氏の著書で提唱された 「反秀才」という言葉が思い出されます。
論理をくみ上げる力や、思考の早さがある人は、もちろん素晴らしい。
それを否定するつもりはありません。
ただ一方で、頭の中は最初から整理されていないけれど、
- 知的なエネルギーがあり
- 探求する心があり
- 体力があり
- 時間をかけることを厭わない
そういう人が、数年かけて独自の才能を開花させていく姿を、何度も見てきました。
UXの仕事は、一度の正解を当てる競技ではありません。
何度も仮説を外し、何度も作り直し、それでも問い続ける仕事です。
だからこそ、初期値のスマートさよりも、更新し続ける態度のほうが、後から効いてくる。
これは根性論ではない
誤解しないでほしいのですが、これは長時間労働や根性論の話ではありません。
重要なのは、「頑張れるかどうか」ではなく、発見に対して、どれだけ誠実でいられるか。
調査で見えたことを、自分の都合のいい物語に回収しない。面倒だからと、放置しない。違和感があれば、もう一度考え、もう一度作り直す。
この態度があるかどうかが、UXデザインの仕事では、静かに、しかし確実に差を生みます。
反秀才は、仕上がりに時間がかかりますし、最初は大切に育てないとくじけてしまうこともある。ただ、執念を持つ部分はなかなか教えられない。
どんな態度で仕事と向き合ってきたかを見逃さないことを、改めて大切に思っています。
【連載】
イントロダクション:UXデザインは、「態度」の仕事
#1:内製化が進む時代に考える:UXを専門にする会社のスタンス
#2:UX組織において、経営が設計すべき「働く人のエクスペリエンス」
#3:UXの仕事では、「更新し続ける態度」が評価される


