はじめに:なぜ今「ジェネラリスト」なのか
NN/g(Nielsen Norman Group)が2025年に発表した The Return of the UX Generalist は、多くのUX実務者・マネージャーにとって、いろいろと示唆のあるレポートだったのではないでしょうか。
AIによって専門スキルが民主化される。
だからジェネラリストが再評価される――。
この主張自体は直感的です。
一方で、UXデザイナをどう育てるのか、いかなる変化を仕掛けるべきかといった問いに対しては、レポートはあえて踏み込みません。
本稿では、NNGレポートを「解説」するのではなく、どう消化しうるのか、また組織・人材の具体アクションにどう落としうるのかを考えてみたいと思います。
NN/gは何を言っているのか(簡潔に)
NN/gの主張を一文で要約すると、こうなります。
AIは専門性を不要にはしないが、「幅広く理解し、つなぎ、判断する人」の価値を相対的に押し上げる。
重要なのは、ここで言うジェネラリストが
・何でも浅くできる人
・スキルの寄せ集めの人
ではない点です。
NN/gが描いているのは、
・原理レベルで複数領域を理解し
・AIを使って試行回数を増やし
・人間がやるべき判断・構造化・意思決定に集中する
といった、「オーケストレーター型の専門職」です。
誤解されがちなポイント
レポートを読んで、次のように受け取ってしまうと、少し危険だと感じます。
「もう専門はいらない」
「若手はとにかく広く触れさせればいい」
「AIがあるから教育コストは下がる」
NN/g自身も繰り返し述べていますが、
・原理理解は不要にならない
・判断責任は人間に残る
・専門家が不要になるわけではない
といった前提は崩れていません。
変わるのは、検討の回転数であると、私は読み取ります。
では、何を変えるべきか ~ UXデザイナの教育という視点で考える
NN/gレポートを人材育成の文脈で読むと、最も重要な示唆はここにあります。
▼「How」を教えすぎない
AIは、How(やり方)を高速で補完します。
だからこそ教育で重視すべきは、
・なぜその手法が生まれたのか
・どの前提条件で有効なのか
・似た構造が他分野に見出しえるか、見出したときどう使うか
といった部分です。
AI時代の育成というと、「ワークフローがどう変わるか」「どのスキルを身につけさせるか」という議論になりがちですが、根本的なところでは、これまでと大きく変わっていないのではと思っています。
・仮説を立てる
・試してみる
・うまくいかなかった理由を考える
・次の一手を更新する
この試行錯誤のサイクルそのものを身体化することが、依然として教育の中核です。
NN/gのレポートも、AIが代替・加速するのは個別タスクであって、このサイクルを回す主体そのものではない、という点を繰り返し示しています。
▼AIは教師ではなく、加速装置
AIを教育にどう使うか、という問いに対して最も避けたいのは、
・AIに正解を出させる
・AIのアウトプットを評価対象にする
という使い方です。
それよりも重要なのは、
・仮説 → 試行 → 振り返りの回数を増やす
・視点のバリエーションを増やす
・フィードバックの速度を上げる
という回転数の向上だと考えます
たとえば、
・仮説案を今の材料をもとに出してみる
・別分野の類似構造を当ててみる
・失敗パターンを意図的に生成して検討する
といったことは、AIがいることで圧倒的にやりやすくなります。
ただし、 どれを採るか、なぜそう判断したか は、必ず人が引き受ける必要があります。 判断・意味づけ・選択は、あくまで人が行う。
この線を越えないことが、UXデザイナの育成では特に重要になると捉えます。
▼「強い筋肉」を育てるとはどういうことか
AIが試行錯誤を加速するからこそ、逆説的に重要になるのが「スピードに耐えられる心身」です。
ここで言う強い心身とは、
・前提条件を疑い続ける力
・分からなさに留まり続ける力
・判断を一時保留にする力
・一旦答えが出た後で、もう一度抽象化する、あるいは具体化する執念
といった、短期的な成果に直結しにくいが、長期的には効いてくる能力です。
AIを使えば、思考のスピードも、アウトプットの量も簡単に上がります。 そのとき、ぱっと見で整った表面をみて「分かった気になる」リスクも同時に高まります。
だからこそ育成では、
・あえて立ち止まる
・なぜそう考えたのかを言語化する
・別の切り口で捉え直す
といった減速のトレーニングが重要になるのではと考えています。
教育設計の重心をどこに置くか
AI時代の教育・育成で更新すべき重心は、
・スキルの習得の支援 → 思考の耐久性向上の支援
・正解への到達ナビゲート → 試行錯誤の質向上の支援
・成果物の評価 → 判断プロセスの評価
へとシフトしていくように思います。
これは目新しい話ではありません。
しかし、AIによって試行錯誤の速度が上がった今、この原則を守れるかどうかの差は、これまで以上に大きくなるように思います。
まとめ:NN/gレポートを自分なりに消化する
NN/gの The Return of the UX Generalist を自分なりに消化すると、以下のようにまとめられます。
試行錯誤の仕方を覚える、という前提は変わらない。
AIはそれを加速してくれる。
だからこそ、その加速に耐えられる強い筋肉を育てる必要がある。
ジェネラリストの再評価とは、器用さの話ではありません。
速く考えられる時代に、しぶとく考え続けられるか。
UXデザイナ育成の設計が問われているのは、まさにこの点だと思います。


