Triggerは、Habit Loopの出発点です。どれほど優れた行動設計でも、きっかけがなければ始まりません。だからこそ、UXにおけるTrigger設計は長いあいだ重要なテーマであり続けてきました。
しかし、Triggerを「通知」として扱い、いつ知らせるか / どの頻度で知らせるか / どんな文言で押すかだけを考えるというのではやや食い足りない時代になりつつあると感じています。
ここでは、もう一段議論を深めるために、Triggerとは、
「生活の地形のなかに、開始点を設計すること」
として定義し、考えていきたいと思います。
押す、置く、そして編み込む
これまでのTrigger設計を振り返ると、大きく三つの段階があったように思います。
第一段階:押す
通知、アラート、メール。利用者をいまいる場所から別の場所へ“移動”させる設計です。
これは明快ですが、同時に人工的でもあります。
「いまやるべきです」と外から押す。
そこには、生活との摩擦がある。
第二段階:置く
より洗練された設計は、生活動線の中に習慣を“置く”ことでした。
歯磨きの横にフロスを置く。
リビングにギターを出しっぱなしにする。
Wiiリモコンをテレビリモコンに近い形状にする。
既存の動線に寄り添う。
これは通知よりも自然です。
私が手掛けたある案件では、LINEのAPIを活用し、普段「最もよく開くアプリ」の中に学習体験を組み込みました。新しいアプリをインストールさせるのではない。すでに生活に根付いている空間に、自然に溶け込ませる。生活のなかで、すでに最も頻繁に開かれている接触面に置く。
こうした自然さの模索は、これまでもやってきたように思います。
第三段階:編み込む
機械協働時代に入り、Triggerはさらに変化します。
Triggerが、“別の場所へ連れ出す装置”から、“既存文脈と地続きの変化を流す装置”へと変わっているのです。
たとえば、生成AIを活用した対話型UIは、この自然さをうまく実現しているように思います。
従来の構造では、
【通知→ アプリを開く→ 機能を選ぶ→ 行動する】
というステップがありました。
しかし対話型UIでは、
「そういえば、昨日の続きどうする?」
という一言が、そのまま行動につながっていく。
TriggerとActionの境界が曖昧になり、開始点が、強制ではなく“続き”になる。生活の流れを断ち切らずに、そのまま行動に入れる。
目指す自然さはよりレベルの高いものになってきています。
そして予測へ
ここまででも十分に変化は大きいのですが、さらに一段、更新が起きています。
生活ログや行動履歴が蓄積されることで、Triggerは文脈に応じて再編成されるようになる。
挫折しやすい曜日を避ける。
負荷を自動的に下げる。
集中力の高い時間帯に合わせる。
開始点は固定されない。その人の生活リズムに合わせて、動的に差し出される。
Triggerは徐々に、「予測」という設計の要素を持ちはじめます。
生活に編み込まれるように、Triggerが入ってくる。
旧来のTriggerは外から押す設計でした。更新されたTriggerは、生活の地形を微調整し、次の一歩を自然に踏み出せるように支える設計です。
この違いは、見た目には小さい。しかし体験としては決定的に違う。
押されて無理やり始める行動と、自然に始まる行動。どちらが長く続くかは明らかです。
挫折しそうなときには、段差がさらに低くなる仕組みがあればなおさら、です。
Triggerはなくなりません。
けれどその意味は、確実に変わりつつあります。
次回、その次にあるActionの更新を見ていきます。

