前回、「山」や「終わり」が感じにくくなった体験について触れました。
ここでは、感覚の話から一度離れます。
考えてみたいのは、ピークエンドの法則がどんな場合に、設計原理として扱えたのか、です。
なぜ、「ピークエンドの法則」はUXデザインに応用できたのか
ピークエンドが「設計可能」だった理由
ピークエンドの法則は、人が体験を「ピーク」と「エンド」で評価するという心理傾向を示します。
しかし心理傾向があるだけでは、設計原理にはなりません。設計原理として扱えるためには、もう一つ条件が必要です。
それは、設計者が体験の時間構造を制御できること。
体験が、
- 明確な開始点を持ち
- 比較的固定された順序を持ち
- 明確な終了点を持つ
とき、設計者はピークを配置できます。
順序が共有され、時間構造がある程度固定されている。これが「代表性」の条件です。
代表性とは何か
ここでいう代表性とは、体験の重心を、設計者が仮定できることです。
すべての人が同じように感じることを保障できないまでも、設計者が「この体験の重心はここだ」と仮定し、その仮定が大きくは外れない。
この状態を、代表性が成立していると言えるとしましょう。
代表性が成立するためには、少なくとも三つの条件が必要でした。
- 経路が比較的固定されていること
- 体験が区切られていること
- 体験単位が明確であること
この三条件が揃うとき、ピークエンドは設計原理として強く機能します。
デジタル環境における三条件の変化
現在、この三条件はどうなっているでしょうか。
(1)経路の固定性の低下
アルゴリズムは、利用者ごとに提示順を変えます。倍速再生やスキップは、順序を解体します。経路は固定ではなく、動的になります。
設計者が想定した一本道は、保証されません。
(2)区切りの曖昧化
無限スクロールや自動再生は、体験の終了点を曖昧にします。
「ここまで」という明確な線引きが弱まる。
エンドは、意図された区切りではなく、偶発的な停止になります。
(3)体験単位の不安定化
APPなどで支えるデジタル体験は、一回のイベントではなく、連続する関係へと変わります。利用は単発ではなく、継続的になります。
体験単位が不安定になると、ピークもエンドも単位を失います。
さらに、機械協働と設計権限の移動という視点があります。
アルゴリズムは、
- 滞在時間が伸びる瞬間
- 反応が高い形式
- 離脱しにくい構成
を自動的に強調します。
このとき、体験の重心を決める権限が、部分的に機械へ移動します。
設計者が意図したピークは、最適化ロジックの中で再配置される可能性がある。
代表性は、設計者の仮定ではなく、データに基づく動的判断へと移ります。
ここで起きているのは、ピークの消滅ではなく、重心決定権の分散です。
まとめ
ピークエンドの法則が機能しなくなったのではありません。
変わったのは、
- 経路の固定性
- 区切りの明確性
- 体験単位の安定性
- 重心決定権の所在
です。
代表性が揺らぐ、つまり設計者が体験の重心を一義的に仮定できなくなってきている。
この構造変化を理解せずに、従来どおりピークを配置しようとしても、効果は限定的です。
では、この代表性が揺らぐ時代に、設計はどの時間単位で重心を置くべきなのか。
この問いが、次回へとつながります。
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