はじめに
注目されてきた「習慣をつける」地形のデザイン
優れたサービスは、機能が優れているだけでは選ばれません。
使い始めてもらうこと。
使い続けてもらうこと。
そして、いつのまにか生活や仕事の一部になっていること。
優れた使用体験は、単発の接触で終わらず、利用者とサービスの関係を時間をかけて育んでいきます。
その関係を支えているのが、習慣です。
どれほどよく設計されたサービスでも、行動が一度きりで終われば、体験は定着しない。
だから私たちは、「習慣化」という言葉に注目してきました。
その理解を支えてきたのが、Habit Loopと呼ばれる考え方です。2012年、チャールズ・デュヒッグが『習慣の力 The Power of Habit』で触れた枠組みは行動設計の基本として広く知られ、多くのプロダクト設計の土台になってきました。

行動には、一定の循環構造があります。
きっかけ(Trigger)があり、行動(Action)が起こり、何らかの結果や感覚(Reward)が返ってくる。その循環が繰り返されることで、行動は習慣になる。
どんなきっかけを置けば行動が始まるか。
どんな行動単位に分解すれば続くか。
どんな報酬を与えれば習慣になるか。
そんな問いに、多くのUXデザイナは立ち向かってきました。
そこに変化が起きつつあります。
生成AIをサービスに組み込むことが当然化しつつある今、その前提は、静かに更新されているように思います。
通知や時間指定だけではなく、履歴や文脈を読み取る仕組みが入り込む。
行動は、人間単独の努力ではなく、機械との協働を含み始める。
報酬は、ご褒美や強化ではなく、変化の実感や自己理解へと重心を移す。
そして決定的なのは、私たちが行動するたびに、取り巻く環境もまた変化していくということです。
次の体験条件は、固定ではなく、更新され続ける。
Habit Loopの三点構造は変わらないのですが、その三点が置かれる条件は、固定ではなくなりつつある。
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この変化は、劇的な革命として訪れているわけではありません。
日々のプロダクトの中で、さりげないパーソナライズとして、自然な補助として、摩擦の軽減として、すでに入り込んでいます。
だからこそ、見過ごされやすい。
前提が変われば、設計の視点は変わるべきです。
ただ、それにもかかわらず、私たちの思考は、従来型のHabit Loopの枠内にとどまっていないでしょうか。
「どうやって続けさせるか」
「どうやって離脱を防ぐか」
その問いは重要でした。
しかし、もはや十分ではないかもしれない。
いま「習慣をつける」地形を考える際の想像力の土台を更新しなければ、UXデザインの質を高める機会を逸してしまうのでは──。私はそう感じています。
本連載は、AIの未来を予測したり、便利な活用法を列挙することを目指しません。
設計の前提となる思考枠組みの更新を扱います。

