60年代のブラウン製品は、とても美しい。
ただし、その美しさは、声高に主張するものではありません。
棚に置かれ、机の上にあり、いつの間にか生活の一部になっている。
Dieter Ramsのデザインには、そんな佇まいがあります。
彼が残した「良いデザインの10原則」は、見た目のルールでも、プロダクトデザインの作法集でもありません。それは、どう振る舞うべきかという姿勢の言語化だと思います。
とりわけ、いまのUXデザイナや、
環境をデザインする役割にある人にとって
強い示唆を与えてくれる原則があります。
良いデザインは慎み深い Good design is unobtrusive.
「慎み深い」という言葉は、静かに溶け込み、暮らしを支えるという態度をとても的確に表しています。
目立たない。前に出ない。でも、確実に役に立っている。
慎み深いデザインとは、存在感を消すことではありません。自分が主役になろうとしないという、強い意志のことです。
気付かないうちに、ペインが消し込まれている。
そんな体験がつくれたとき、デザインはきれいに溶け込んでいます。
良いデザインは便利さを実感させる Good design makes a product useful.
「便利」という言葉も、しばしば誤解されます。機能が多いことでも、操作が派手なことでもない。
Ramsの言う useful は、生活の流れを壊さないことに近い。
考えなくていい。
迷わなくていい。
余計な注意を向けさせない。
便利さが前面に出てくるとき、それはしばしば「使わせよう」としているサインでもあります。
本当に便利なものは、便利だと意識されない。ここでもまた、useful は unobtrusive と同じ方向を向いているように思います。
良いデザインは、色褪せない Good design is durable.
流行を前提にしない。
一過性の最適解に賭けない。
長く使われることを、最初から想定する。
選ばれ続ける体験を設計できているかという問いを作り手に投げかける原則だと思います。
派手さは早く古びる。
慎み深さは、時間と相性がいい。
durable という原則もまた、unobtrusive な姿勢の延長線上にあります。
使われる環境を意識するということ Good design is concerned with the environment.
この原則は、「溶け込む」という思想を、最も直接的に語っています。
どこで使われるのか。
どんな状況で、どんな気持ちで触れられるのか。
何と並び、何に囲まれて存在するのか。
環境を意識するとは、デザインを際立たせることではなく、関係性の中に置くことです。
生活の一部として、
仕事の流れの一部として、
感情の連なりの中で使われる。
暮らしに寄り添い、溶け込んでいく。
Ramsが語っているのは、方法論ではない
こうして見ていくと、
unobtrusive、useful、durable、concerned with the environment は、
別々のチェック項目ではありません。
すべてが、同じ方向を向いた姿勢の言葉です。
現代の体験デザインの現場にも、Ramsの言葉はじんわりと効く
事業やサービスを考える立場でも、その体験価値を私たちは語りたくなります。
意図を伝えたくなる。
正しく使ってほしくなる。
その結果、説明が増え、体験は重くなり、美しくなくなっていく。
だからこそ、Ramsの原則は効きます。
前に出ていないか。
語りすぎていないか。
時間や環境に耐える想定を、持てているか。
Dieter Ramsの提示する原則は、今のサービスデザインにとっても有効な、
作り手が意識すべき倫理規範です。
溶け込むという意志。
それは、生活者を支える環境を手掛けるデザイナが
意識的に選び取らなければならない態度なのだと思います。


