意外と教わらないものの一つに、メンタルタフネスの技術があります。
私はもともとメンタルが強い人間ではありませんでした。
どちらかといえば、上司との面談は自分を不安定にさせる場でしたし、フィードバックに対して防御的な反応も強かったほうだと思います。
正直に言えば、当時の自分がなぜフィードバックを「やっかいごと」としてしか扱えなかったのか、よくわかりませんでした。自分の上司への反応は正しいものではないと思いながら、苛立ちを隠せなかった。
その防御反応が、クライアントに向いてしまったこともあります。
納品直前に無理目な要求をいただく、という状況ではありましたが、感情的に反応してしまった。
このままではまずい、きちんと向き合わなければいけない。そう思い、仕事の仕方そのものを見直すことになりました。
当時、強く影響を受けたのが、プロスポーツのメンタルコーチであるジム・レーヤーの『メンタルタフネス』でした。
船は、必ず波によって揺れる。そのとき、膝に余裕を持たせず、ピンと張って立っていれば、簡単に転ぶ。
プロジェクトも必ず揺れる。余裕がなければ、簡単に倒れる。
思い返すと、当時の私はまさにその状態でした。
限界まで自分を張り詰めさせ、それを「責任感」や「強さ」だと勘違いしていたのだと思います。
学びは単純でした。
船は必ず揺れる、という前提に立つこと。
揺れたときに耐えられるよう、あらかじめ膝にゆとりを持っておくこと。
何より、回復というプロセスを大切に扱うこと。
書いてしまえば当たり前の話ですが、私はそれを知らなかった。
では、その「膝の余裕」は、どうすればつくれるのか。回復を大切にするという心構えだけでなんとかなるものなのか。
ここで、具体的なヒントを与えてくれたのが、トム・デマルコの著作、『熊とワルツを』『ゆとりの法則』等にあったプロジェクトマネジメントの知恵でした。
当時の私は、デマルコのいう「出来上がる可能性がナノパーセント生じる」ようなスケジュールを、平気で引いていました。実現されるはずがないと、どこかでわかっていながら、ただ祈っていた。
当然、スケジュールは機能しません。
結果として深夜や週末に作業が入り、つじつまを合わせることに必死になる。
そうやって削られていくのは、時間だけではなく、心の余裕でした。
そこで学んだのは、きわめて地味な技術です。
タスクを前から順番に積み上げ、誰かにとって都合が悪かろうと、「普通にやれば、これだけの時間がかかる」という見通しを、冷静に書く。
多少のブレが生じることは織り込む。
「こうなったらいいな」ではなく、
「普通にやると、こうなる」を落とす。
それだけのことです。
実際、希望どおりにはいかないこと、現実はどこまでも現実で、見通しよりも早くなることなどないことを経験から学び、祈るのをやめました。
メンタルタフネスは、性格や気合の話ではありませんでした。
揺れる前提で仕事を設計しているかどうか。
プロジェクトの構造が、人の心を追い詰めるものになっていないか。
結果として、その設計がうまくいっているとき、人は「折れにくい状態」で仕事ができる。
20年以上前に学んだことですが、いま振り返っても、実践的な仕事の技術だったと思います。


