これまで、「やわらかい設計」と名前を付け、関与の循環ついて考えてきました。
(過去投稿:やわらかい設計という考えについて)
(過去投稿:「やわらかい設計」のモデル化)
(過去投稿:「やわらかい設計」の適用例)
この視点を持つと、現場での熟達した指導者の語り掛けやサポートの仕方が、少し違って見えてきます。
たとえば、仕事の現場でこんなやりとりを見たことはないでしょうか。
部下が何かを相談したとき、上司がすぐに答えを出すのではなく、判断を相手に返すような関わり方をする。
どうすべきかを指示するのではなく、少し考えないと返せない投げかけをしたり、「自分はどう関わるのか」を考えさせるようなやりとりです。
以前、リクルート社にいた人から、こんな話を聞いたことがあります。
若い人材に大きな裁量を与え、強い起業家を数多く輩出してきた、あの独特のカルチャーの中で、上司はよくこう問いかけていたそうです。
「で、お前はどうしたいの?」
少し強い言い方にも聞こえますが、この問いが機能するとき、そこでは何かが起きています。
それは、決して上司の代わりに「考えさせている」ということではありません。
まず、それまで外にあった問題が、自分との関係として引き寄せられる。他人事ではなく、自分が関わる対象になる。
次に、関わり方が開かれる。何をすべきかが決められるのではなく、どう関わるかを自分で決める余地がある。
そして、その関与は実際の行動につながり、結果として何が起きたのかが返ってくる。
「お前はどうしたいの?」というフレーズは、しばしば精神論として語られることもありますが、このマネージメント技術の核は、関与の循環(Overlap – Engage – Act – Feedback)を起動している点にあると私は考えます。
重要なのは、この振る舞いをそのまま真似ることではありません。
「どうしたいの?」と聞けばよい、という話ではない。むしろ、その表面的な模倣は危険です。
この問いが機能するのは、その背後にループが回る機構が成立しているときだけだからです。
・関与してよいという前提がある
・行動の余地がある
・結果が返ってくる環境がある
これらがなければ、この問いは単なる上位者からの圧力になります。
ここで見えてくるのは、熟達した指導者の支援は、ただのコミュニケーションスキルではないということです。
関与の循環が回る環境をつくっている。
その結果として、あのような振る舞いが成立している。
問いかけのフレーズは関係性やシーンによって調整すればよく、大事なことは、関与が立ち上がるアーキテクチャになっているか。
その視点をもつことが大切に思います。
やわらかい設計とは、人の内側に働きかける技術ではありません。
関与が立ち上がり、循環する外側の環境を設計することにある。
その枠組みでみると、これまで職人芸のように語られてきた振る舞いの意味も、少しずつ見えてくるものがあると感じています。


