「仮説を立てて語る」よりも先にすべき仕事
成果を求められ、かつ期限のある仕事であれば「強い仮説を早く出す」という圧は常にあります。
実際、問題がなぜ起きているのか、それはどう解消できるのかの見立てを素早く組み立てる力は非常に大切です。
ただ私は、仕事を始めたころは、その自分の頭で考えた“強い仮説(にみえるもの)”に飛びつくような仕事の仕方をしていたような気がします。
率直に言えば、クライアントに話を聞く、という仕事をきちんとできていなかった。
お恥ずかしい話ですが、そんな基本といわれる仕事の仕方を失敗しながら学んできました。
少し古い本ですが、デビッド・H・マイスターの
『プロフェッショナルアドバイザー』は、
その癖にブレーキをかけてくれた本でした。
「正しいことを言う」より前に、
「語ってもらえる場をつくる」という仕事がある。
それを、私は最初、きちんと理解していませんでした。
あらゆる取り組みには「背景」があり、「感情」がある
外から見えるのは、課題の断片です。
けれど実際には、あらゆる取り組みの背後に、少なくとも三つが存在します。
- その課題が“課題だ”と見なされるに至った背景
- 改善の向かう方向に宿る意思(ビジョンや都合も含む)
- そして、当事者がそれに対して抱いている感情
ここで厄介なのは、背景や感情は、最初から整った形で差し出されないことです。
むしろそれらは、「整理できていない」「説明しづらい」「言うと角が立つ」ものとして、内側に沈んでいることが多い。
さらに、その取り組みの周辺にある「環境」、たとえば関連部署含む社内の事情は外からはほとんど見えません。
組織の力学、過去の経緯、誰が何に傷ついたか、何が“禁句”になっているか。
こうしたことは、ヒアリング項目を増やしても出てくるものではありません。経験のあるコンサルタントが、率直に、冷静に、丁寧に拾いあげようとしてもなかなかでてこないものでもあります。
ただ、ある瞬間、気づけば自然にお話しをいただけるようになる。
「裏側含めて話したほうがいい結果になる」「この場は安全だ」と感じ始めたときに、少しずつ教えてくださる。そんな感覚をもっています。
「価値に向かう」には、同じ方向を見ている必要がある
私たちはよく、「価値に向かえ」と言います。
UXデザインでも、事業でも、最終的にはそこに尽きる。
ですが当たり前の話として、クライアントと一緒に歩めなければ、価値には向かえません。
相手がどこに行きたいのか分からないまま、こちらだけが“価値の地図”を広げても、同行は起こらない。
この「クライアント理解」は、業務理解やKPI理解だけではありません。
その人が、この対象となるプロダクトと、どんなストーリーを紡いできたのか。
プロダクトや環境にどんな感情をもっているのか。何に苛立ち、何を恐れていて、何を守ろうとしているのか。
こうした理解がないと、作る仮説も、クライアントが「自分が作ったもの」と感じられるようにならない気がします。
お打ち合わせを何度も重ねますが、特に序盤は共に向かうための足場をつくる行為に近いのだと思います。
意外と、やらない
まわりを見ていると、この「まずは聞く」という基本動作をやらない人は意外と多いように思います。
急いで答えを出そうとして、急いで価値を示そうとして、結果的に、相手の時間と現実を軽く扱ってしまう。それは悪意ではなく、むしろ真面目さの裏返しなのかもしれません。
あらためて、「まずは聞く」は、態度やマナーの話ではなく、仕事が前に進むための前提条件なのだと感じています。


