大きな変化は、渦の中にいると見えにくいものです。
後から振り返れば、「あれが転換点だった」と言える。
しかし、その只中では、目の前の違いにばかり意識が向きます。
スマートフォンが登場したときも、そうでした。
当時、多くの人がまず注目したのはデバイスとしての新しさ、例えばタッチパネルやスワイプなどの直感的な操作性だったように思います。
従来の携帯電話との違いは明確で、語りやすい変化でした。
ですが、いま振り返ると、暮らしを大きく変えたのはそこではなく、「常時接続」という前提の変化だったように感じています。
スマートフォンがあることで、デジタルは「つながっていることが当たり前」のものへと変わりました。
通知は常に届き、検索はいつでもできる。退屈や待ち時間の意味が、静かに書き換わった。
インターフェース以上に、暮らしの前提が更新されたのだと捉えています。
常時補助という言葉を仮置きしてみる
いま、機械協働の時代に入り、私たちは再び大きな変化の只中にいます。
どの企業が勢いを持っているのか。
どのモデル、どのサービスが標準になるのか。
勢力図の議論は日々更新されています。
それらは重要です。
しかしそれは、あくまで「どの船が速いか」という話でもあります。
勝者が誰かという問いには、いずれ答えが出るでしょう。
けれど、その競争の陰で何が前提として書き換わったのかは、後になってからでなければ見えないかもしれません。
もし、いま本当に起きている変化があるとすれば何か。
それは、補助が常に横にいることを前提に、体験が組み立てられ始めているという事実ではないでしょうか。
私はこの変化を、「常時補助」という言葉で捉えてみたいと思っています。
(「補助」なのか「支援」なのかという議論もあるかもしれませんが、ここではより中立的なニュアンスの「補助」という言葉を選んでおきます)
常時補助とは、補助が「環境」になっていくことです。
必要なときに呼び出すものではなく、いつのまにか前提としてそこにあるものになる。
使っていると意識する前に、すでにそこにある。
それが、やがて当然になる。
文章を書く前に、叩き台がある。
企画を考える前に、構造が提示される。
判断を下す前に、整形された選択肢が並ぶ。
補助が「ある」のではなく、補助が「前提」になる。
この違いは小さく見えますが、体験の作り方は大きく変わる。
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常時補助という言葉は、少し大げさに聞こえるかもしれません。
けれど、特別な未来の話をしているわけではありません。
私たちは、すでにその地形の上で動き始めています。
朝、メールを開くとき。
返信文の提案が表示される。
ドキュメントを開くとき。
空白の前に、構成案が差し出される。
コードを書くとき。
次の行が予測される。
動画を見終わると、次の一本が自動で再生される。
どれも些細な変化です。
けれど、それらは共通の構造を持っています。
行為の前に、提案があるのです。
常時補助の3つの特徴
常時補助をあえて特徴づけるとすれば、3つ考えられるのではと思います。
第一に、常駐していること。
補助は必要なときに呼び出すものではなく、常にそこにあります。
第二に、即時性があること。
応答はほぼ瞬時に返る。待つ時間がほとんどない。
第三に、状況にあわせた自動生成であること。
補助は固定されたテンプレートではなく、その場で出力を生成する。
これらの条件が折り重なり、補助は自然な環境になりつつあるのではないか。
環境は、意識されにくい。
だからこそ、その影響は大きいように思います。
常時補助とは、補助が強力になることではありません。
補助が環境になっていくことです。
UXデザインの前提は、当然揺らぎます。
まだ結論を出す段階ではありません。
ですが、前提が変われば、デザインの拠り所も、想像力の広げ方も変わっていくことが自然です。
渦の中にいるいま、実践しながら、一つ一つ更新を重ねていきたいと思います。


