SaaSは、長いあいだ、ある前提の上に設計されてきました。
それは、「日々の暮らしや業務に組み込まれ、使い続けられること」です。
オンボーディングを整え、継続利用を促し、解約されないように体験を改善する。
「使われ続けること」そのものが、価値であり、競争力であり、事業の基盤でした。
この前提は、いまでも多くの場面で有効です。
けれど同時に、少しずつ、別の変化も起き始めています。
それは、「使っている」という意識そのものが、薄れていくという変化です。
たとえば、
- 何かを管理している感覚がないまま、管理が終わっている
- 操作しているつもりはないのに、判断や処理が進んでいる
- サービス名を意識しないまま、目的が達成されている
こうした体験が、静かに私たちの日常に入り込み始めています。
今後AIエージェントが育っていけば、こうした変化はすさまじい勢いで広がるでしょう。
ここでは、「使い続ける」ことは前面に出てきません。あるのは、「気づいたら終わっていた」という感覚です。
言い換えると、SaaSが前提にしてきた
「ユーザがサービスを使い続ける世界」から、
「サービスや行為そのものが意識されなくなる世界」へと、
視点が一段、奥に進んでいる。
これは、UXデザインの役割が変わった、という話でもあります。
これまでのUXは、
- どう使わせるか
- どう迷わせないか
- どう継続させるか
を中心に設計されてきました。
これから問われるのは、
- どう意識を奪わずに済ませるか
- どう生活や業務の流れに溶け込ませるか
- どう、環境側が先読みをして仕事を終わらせるか
という設計です。
ここでは、良いUXほど、存在感が薄くなっていく。
説明も、教育も、操作も、「必要だからある」状態から、「ないことが自然」な状態へと向かっていく。
重要なのは、これはUXを軽視する話ではない、という点です。
むしろ逆で、これまで以上に、文脈理解や設計の精度が問われる世界です。
SaaSが切り開いてきた「使い続けることが価値になる」世界は、確かに一つの到達点でした。
購入して終わりではなく、使用体験に重心を移したという変化は、世界を善い方向に移したと私は思っています。
ただ、その先では、
「使っていることを感じさせない」ことが、
次の競争軸になり始めている。
UXデザインも、その前提で、もう一度考え直す時期に来ているのだと思います。


